Apple Pencilを通じて見る筆記具の書きやすさとデザインについての話

※この記事は「買ってよかったものあれこれ①:ガジェット編」というタイトルのつもりで書いていたら,iPad Proの2018年モデルを紹介する中でのペンとしてのApple Pencilについて語るくだりが暴走を始めたため一つの記事として独立させたものです。

iPad Pro 11インチ(2018)&Apple Pencil(第2世代)

もう売られていないので2020年モデルを。

 

最新モデル Apple iPad Pro (11インチ, Wi-Fi, 256GB) - シルバー (第2世代)
 
Apple Pencil(第2世代)

Apple Pencil(第2世代)

  • 発売日: 2018/11/07
  • メディア: Personal Computers
 

Apple Pencilが使えるiPadの有用性についてはいろんな人が紹介してくれているので特に何も書くことはありませんが,第2世代のApple Pencilが使えるモデルが本当に便利だ,ということは伝えていきたいところです。

 

iPadの尻に差し込むという変なことをせずとも,iPadの横にくっつけておくだけで充電が完了するという喜びもさることながら,第2世代Apple Pencilの素晴らしさはそのペンとしての書きやすさにあります。

 

というか,第1世代のApple Pencilが書きにくい,という話になってしまうのですが。一般に,ペンの重心は真ん中からやや低めが好まれる傾向にあり,極端な高重心は書きにくいとされることが多いです。たとえば,ぺんてるのグラフギア1000やその辺で売られている鉛筆型のシャープペンシルなど(掲載した「大人の鉛筆」はそれとはちょっと違うのですが,まあ趣旨としては同じことです)。あるいは,おろしたての鉛筆などを想像してもらえるとわかりやすいでしょうか。グラフギア1000のような「上の方も含めて全体的に重いせいで比較的高重心」(一般にシャープペンシルは下部にギミックや重いパーツが集中している)ならまだしも,おろしたての鉛筆のように「長すぎて高重心」タイプは正直かなり書きづらいです。長すぎるバットは振り切るのが大変,というのと同じような話なのでしょう。

 

 

 

 

さて,第1世代のApple Pencilを見てみると,見事にこの「長すぎて高重心」に当てはまってしまっています。便利さのためにこんな感じのクリップを付けてしまったりすると高重心はさらに加速します。

また,第1世代のApple Pencilは純粋な重さもとんでもないことになっています。少なくとも体感では,グラフギア1000は軽く超え,重いことで有名なシャープペンシルの「rotring 600」をも超えています。

 

 ペンの重さの好みは人それぞれですが,さすがにこのレベルになってくると大半の人が「もっと軽いほうがいいなあ」と感じるはず,というラインを超えてしまっているのですね。

 

そんなわけで,ペンとしての第一世代Apple Pencilの出来はお世辞にも良いとは言えなかったのです。

 

なお,高重心については「下の方にグリップ兼重りをつける」という手法で解決できる(以下に掲載したものがおすすめです)のですが,重さそのものについてはますます増してしまうので,根本的な解決は不可能です。

 

 

 

それに対し,第二世代はどうでしょうか。長さは短く, 重さも軽くなっています。手元のペンと比べるなら,鉛筆シャープ type MXよりは軽く,925 25/35やS20と同程度,S3やスマッシュよりはやや重い,と言ったところです。この重さは,おそらくほとんどの人にとって(仮にドンピシャではなかったとしても)満足いく範囲内です。具体的に何%かはわかりませんが,主観で言ってしまえば98%以上の人のニーズは満たしているはず。この改良が地味に大きく,ぼく自身はこのiPad ProとApple Pencilを買ってからというもの,iPadで手書きをする機会が格段に増えました。iPadでの手書きは紙への手書きと違い,容易にコピーや修正が可能なため,本来とても便利なのですが,このモデルへの買い替え以前にあまりそうしていなかったのは,おそらくひとえにそのペンとしての使いづらさに起因していたのだと思います。

 

 

ステッドラー シャーペン 製図用 0.5mm オール ブラック 925 35-05B

ステッドラー シャーペン 製図用 0.5mm オール ブラック 925 35-05B

  • 発売日: 2019/10/30
  • メディア: オフィス用品
 

 

 

  

 

さて,第二世代Apple Pencilの良い点はこれだけではありません。 iPad Proの側面にくっつけて充電するといった関係で,第二世代Apple Pencilの側面は完全な円柱形ではなく,一部が平らになっているのですが,これが充電のためといった都合を超えて,書きやすさをより増すギミックになっているのです。

現行商品でいうと,コクヨの「エラベルノ」というボールペンが(ボディの形状が3種類あるのですがいずれも)平らな面を持っていて,近いものを感じます。(余談ですが,これたぶんあんまり売れてないんですよね……。けっこう好きなのですが。とくに標準グリップとゲルインクの0.7mmブルーブラックはお気に入り。見つけたら買ってみてほしい。)

 

 

他にもボールペンにはこのようにグリップが一周するうちの一部分だけが特別扱いされているものもあるのですが(たとえばシグノ307など),それに対してほとんどのシャープペンシルは側面が点対称な作りになっています。完全な円形でなかったとしても,トリプラスのような三角形,カラーフライトのような六角形や,グラフ1000のような均等に出っ張りのあるタイプなど,2π/3やπ/3,π/6回転させると重なる作りになっています。

 

 

 

ステッドラー シャーペン トリプラスマイクロ 0.5mm 774 25

ステッドラー シャーペン トリプラスマイクロ 0.5mm 774 25

  • 発売日: 2019/11/02
  • メディア: オフィス用品
 

 

Zebra カラーフライト0.5mm 鉛芯 シャープペンシル

Zebra カラーフライト0.5mm 鉛芯 シャープペンシル

  • 発売日: 2014/10/01
  • メディア: オフィス用品
 

 

 

ぺんてる シャープペン グラフ1000 フォープロ PG1005 0.5mm

ぺんてる シャープペン グラフ1000 フォープロ PG1005 0.5mm

  • 発売日: 2014/10/01
  • メディア: オフィス用品
 

これはシャープペンシルが「少しずつ回して書いていかないと,芯の減り方が片方に集中してしまう」という弱点を持った筆記具だからですね。 常に同じ向きで書き続けられないため,回転させて同じになるデザインでないと,気に入った書き味の持ち方をたまにしかできない,という問題が発生してしまうのです。

 

この弱点に注目して,芯側を回そうという発想に至ったのが有名な「クルトガ」ですが,その割にはいままで登場したどのモデルも完全な円形になっていて,もうちょっと冒険してくれてもいいのにな,と個人的には思っています。

 

 

 

なお,過去にはぺんてるがこの常識を打ち破ったものをいくつか出しています。

 2003年には「XS」というシャープペンシルを売り出しました。ペンの前側(と言うのかよくわからない,クリップ側)から後ろ側に登っていく3本のラインが特徴的です。

ペン先や尾部などはスマッシュとの類似点を感じさせる作りですが,残念ながら人気がなく,早い時期に生産中止となってしまいました。

 

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ぺんてる XS

 

また,2006年にはシャープペンシル史上に残る変態的な製品である「エルゴノミックス ウインググリップ」を売り出しました。翼のようなよくわからないパーツを親指と人差指の間にはさみこんで新たな支点として,安定した状態で書く,というよくわからないコンセプトのこのシャープペンシルは,そのように固定したら当然ペンを回して書くことなどできないのですが,それをグリップ(下の画像の白い部分)から下を手動で回せるようにして解決している,という点が革新的でした。ペン自身でなく,ペン先だけを回すという発想ではクルトガに近いものがありますね。こちらもあまり使っている人を見ることもなく,ひっそりと生産中止になってしまいました。Xsよりは宣伝もされていて多少は売れていた印象ですが。

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エルゴノミックス ウインググリップ

 

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持った様子


……話が脱線しました。結局何を言いたいかというと,ペンのグリップ部分が「回したら重なる」デザインになっているものが多いのは,シャープペンシルの場合そうしないとベストパフォーマンスをたまにしか出せなくなってしまう,という理由(と,その方がデザインが楽という理由もちょっとある気がする)によるものです。同デザインのシャープペンシルを作らず,ボールペンだけで売り出す製品や,そもそもスタイラスペンの一種であるApple Pencilにはその必然性はないのです。

 

実際,「エラベルノ」にしろ第二世代Apple Pencilにしろ,平らな部分はさほど広くありませんから,「全部円形の方がよかった,平らな部分はいらなかったなあ」という人は,平らな面を親指と人差し指の間,あるいは親指と中指の間にして,円形になっている部分だけを持つことが可能です。一方,平らな部分をどこかの指に引っ掛けて使いたい,という人も数多くいるでしょう。ぼくは親指に平らな部分が来るようにしています(正確には,平らな部分に親指を乗せた状態からほんの少しだけ親指を下にずらしています)が,人差し指を平らな面に置くのがしっくりくる人,中指に置くのがよい人,など様々でしょう。そのすべてに幅広く対応してくれるすばらしいデザインなのです。

 

というわけで,言いたいことをまとめると以下の通りです。

 

  • 第二世代のApple Pencilはすばらしいので,これを使うためにiPad Proの2018年あるいは2020年モデルを買いましょう
  • 文具メーカーは第二世代のApple Pencilのように平らな面を作ったボールペンをジャンジャカ出してもいいんじゃないですか,円形にこだわる意味ってそんなないと思いますよ
  • というかクルトガでそれやってくださいよ

おわり。