進学選択についての雑感

事実のまとめと原因予想

2018年度進学者用の進学選択が第一段階,第二段階と終わり第三段階を残すのみとなりました。今回より第二段階への受入保留アルゴリズムが導入されたため,第三段階の参加者は少なくなると予想されていたのですが,個人的に第一段階・第二段階の結果表を調べてみた限りでは少なくとも108名が第三段階に突入しています。

これは例年より多い数値で,その面で見ると受入保留アルゴリズムの導入により予想される結果とは相反しています。

原因として考えられるものはいくつかあり,すぐに思いつくものとしては

  1. 受入保留アルゴリズムのために第二段階で以前ならこっそりと行われていた「定数を越えて取る」が不可能になった結果,各学部で実質的な定数(事実上の収容人数)が減少していると思われます。例年であれば工学部などは定められた定数よりも少しだけ多めに取る,ということが常態化しており,良し悪しはともかくそのことによって路頭に迷う学生の数が多少なりとも減少していたことは事実です。
  2. 文一から法学部以外に進学した学生が多く,文一→法学部の枠が大量に余っているのですが,それ以外の文系学部では枠の余りが皆無となっています。(驚くべきことに,不人気の代名詞であった文学部も全ての群で定数を充足しています)一方で,文二・文三(特に文二)の第三段階突入者が多く,彼らの進学枠が物理的に不足しています。文一や理一・理二からの経済・文(・教養)進学者が例年なら彼らのものになっていた全科類枠を使ったためにこうした自体になったものと思われます(例えば,第二段階の経済学部に全科類枠が一定数(今年は18)用意されているのですが,2014年度の進学振り分けではこの全科類枠に文二が半数程度食い込んでいました。今回のそれでは第二段階・全科類枠での文二→経済内定者はゼロです)
  3. 化学系があまりに不人気すぎて用意されている枠に対し志望者が圧倒的に少なくなっています。学部を問わず多くの化学系学科が底割れ状態にあり,第三段階でも募集をかけている一方で,(制度を正しく理解しているのであれば)今第三段階に残っている理系学生はいずれも「化学系に行くぐらいなら降年した方がマシだ」という価値判断をしていることになるため,定数の充足は期待できないでしょう。化学系に対して「絶対に行きたくない」という人が多すぎる現状と1.の収容人数減少と関連して考えると,化学系を希望しない理系学生の数が化学系を除いた理系学部学科の枠の数に対して多すぎるため,収まりきらずにあふれてしまっているという状態のようです。今年が定数を越えて取れなくなった一年目なので,今年降年を選択した人(≒化学系には絶対行きたくない)が丸々増える来年度の進学選択では,(化学系の不人気および現状の定数が維持されるのであれば)より悪化することが懸念されます。
  4. 少数だとは思われますが,第二段階のシステムを理解しきれていない学生がいるのかもしれません。新制度の進学選択においては第二段階は事実上のラストチャンスであり(制度の趣旨を考えると,第二段階で仮に志望していても内定できなかった学科に第三段階でなら内定できる,ということはないはずです。情報戦を廃し正直申告が得をする新制度のメリットが失われてしまうので),「降年するよりはマシ」という学科を全て志望順に埋めていくというのが学生側が取るべき戦略です(今回の進学選択は78の学科やコースに分かれていたので,第15希望まで埋めた人は他の63の学科やコースに進学するぐらいなら降年した方がマシだ,という意思表示をしていたことになります)。

といったあたりでしょうか。

 

以下,第三段階を実施しないけど定数も満たしてない学部についての雑記。

  1. 法学部は推薦入学の14名を差し引いてもまだ当初の定数から文一枠の27人分が余っていますが,第三段階で受け入れるのは文一からの5名だけとなっていて多くとも22人分の枠を余らせる見込みです。
  2. 同様に薬学部は第二段階で29名募集していましたが実際には27名しか内定しておらず,実質的には底割れ状態にあったと思われますが,第三段階の受け入れを実施しません。医学部の健康総合科学も同様です。
  3. 医学部医学科は第二段階で理三枠32に対し内定者29と3名分余らせていますが,こちらに関しては定数以上に取れないという受入保留アルゴリズムの特徴に合わせ,留年者含め進学選択に参加する理三全員に席を与えるため(と思われる)に,当初の定数よりも枠を多くしていたという事実があります。
  4. 工学部の電気電子も定数より8名低い状態のまま(推薦入学者がいた場合はその人数分不足がなくなる)のですが,こちらに関しては電子情報と一部の枠を共有しており,定数として表記されていたものは電気電子と電子情報の各々の限界値なのに対し,実際には電気電子と電子情報の和で定数が定められているために定数まで取られていないように見えるだけだろうと思われます。

法が大量に枠を余らせているにもかかわらず文一以外の第三段階を認めない理由としては,文一以外にとって法学部は人気学部であり,第二段階の結果法学部より低い順位として登録した別学部に内定した学生が少なくない数いるにも関わらず,第三段階に突入してしまった学生にだけ門戸を開いてしまうのは明らかな不公平であるからだと予想されます。

逆に,薬や健康総合科学については定数を割っているという事実があるので,(指定科類を定めるかどうかは置いておいて)第三段階を実施しないことに上記の法のような正当性はないと思われますが,なんにしても事実として第三段階は行われません。

 

この辺のデータはがんばって打ち込んで分析したので以下のリンクを参照していただけるとうれしいです(問題があるようなら消すので,その場合はご一報ください)。

ShingakuSentaku.xlsx - Google ドライブ

 

新制度の問題点と解決策として考えたもの

この新制度は成績の良い人が行きたい学部に行けるという点では当初の期待を満たしているようにも思われるのですが,成績が良くない層への対応としていくらかの問題を孕んでいるようにも見えます。

1.受け入れ側の選好似通りすぎ問題

学科側が学生について成績以外の情報を得られるのは今回の進学選択では「志望理由書」と「面接」の2つだけでした。志望理由書は学部にもよりますが1000字程度,面接は医学部医学科の場合は10分程度でした(社会基盤学などでも行われたようですがそちらについては残念ながら情報を持っていません)。

正直に言って,この2つに例えば平均点が60の学生が85の学生を上回るほどの重みを持たせるのは難しいような気がしています。

また,各学科ごとに科目ごとの成績の重み付けを変更できるようにもなってはいるのですが,そうはいっても特定の科目の重率が5倍されるなどに留まるため,既存の(一般に用いられる)平均点での序列を大きく覆すものには見えません(少なくとも,上に挙げたような平均60と平均85の学生が評価で逆転,というようなことは起きないはずです)

以上の実情を考えると,受け入れ側である各学科・コースの学生に対する選好は(一部で入れ替わるものの)概ね同様の序列になっている,と考えるのが妥当と思われます。

こうした成績をベースとした似通った選好の元では,成績優秀な学生はすぐに内定する一方,成績が極めて良くない学生はそれこそ定員割れもしくはそれに近い学科が志望に入っていない限りは内定の見込みがない,ということにもなりかねません。

これに対しては正直,解決策が思いつきません……。面接・志望理由書以外で学生の熱意や専門能力などの見たい要素を見る方法が何かないものでしょうか。しっかり見たいだけならペーパーテストなど実施してもいいかもしれませんが,後述するコスト問題とは相反してしまうし……。

2.志望登録にかかるコスト問題

前述しましたが,第二段階の基本戦略は「降年するよりマシな学科はすべて志望登録する」です。ですが,これは本当に可能なのでしょうか?

進学選択で選べる学科やコースといった選択肢は全部で78個あります(科類枠や要求科目の都合などで選べないものもありますが)。しかも文学部の各群や工学部の計数工学科など,入った後にコース分けがなされ,それを前提にその先の進路まで見据えた上での進学が前提になっているところも一定数ありますから,それを加味すると選択肢はさらに多様になります。

これらのすべてについて,「何をやる,何がやれる,何がやれない学科なのか?」をキッチリと調べることは,現実的には難しいはずです。理想的には進学選択が始まる前に調べておくべきなのでしょうが……。なので,低順位の志望になればなるほど,雰囲気や思い込みでの志望が増えるはずです。

また,多くの学科が学生を成績以外の部分で評価しようと志望理由書や面接を課していますが,低順位での志望においてはこの部分がネックになり志望が難しくなる,という事実があるように思われます。実体験として,1200字程度の志望理由書を提出し10分程度の面接に参加するというだけであっても決して楽だとは思いませんでした。第一志望でこれなのですから,例えば第10志望のために志望理由書を1000字書かなくてはいけないぐらいならそこは志望しない,という選択を取る学生は決して少なくないはずですし,どんなに成績が悪い学生でも第25志望のために志望理由書を書こう,という気にはならないはずです。また,たとえ書いたとしても上に上げたように雰囲気や思い込みで志望せざるを得ないため,志望理由書にせよ面接にせよ,高い評価を得ることは期待しづらいのではないでしょうか。

これらの事実と推測を踏まえると,「志望順に全て書くのが最適戦略」というのは,志望登録に一定のコストがかかる現状では必ずしも正しくないのかなあ,という気がしています。

とはいえ,だからといって志望理由書や面接を廃止してしまうと本当に成績で見るしかなくなり,成績不良者はますます不利になってしまうのですが……。

解決策になるかわかりませんが,志望理由書を出さなくても/面接に参加しなくても(評価は下がるが)志望自体はできるようにする,などは手段の一つとして考えられるかなと思います。これなら第15志望でも第30志望でも気軽に登録自体はできますから,そうしたコストに対する妥協策としては有効ではないでしょうか。一方,そうして志望登録してきたあからさまにモチベーションの低い学生を,学科側が(たとえ定数が埋まっていないにしても)取りたいかという問題はあるのですが。

3.いくつ志望したらいいのかよくわからん問題

1.に挙げたような理由により,低得点の学生は人気のないところを含め,多数の希望を出すようにしていかないと未内定のリスクが高まってしまうという事実があるわけですが,2.に述べた理由により,30も40も志望登録するというのは実際には不可能です。

実際のところどのぐらいまで志望するととりあえず一個ぐらいは定員割れがあるだろう,ということになるのか?今現在進学してもよいと考えている各学科はどの程度の人気なのか?自分より成績のいい人がどの程度志望しているのか?ということに関して,学生側には情報が与えられていません。今回が初回だったために情報が不足したということももちろんありますが,今回から教務課は底点を出さなくなったため,予想は来年以降も難しいでしょう。第10志望まで書いたらさすがに大丈夫だろう,と思ったらそれでも未内定に終わった,などの例は決して少なくないはずです。

このあたりは肌感覚でどうこうなる問題ではないはずなので,教務課側からの働きかけが必要ではないかなと思っています。例えば「このぐらいの点数だと実際に内定したのは第何志望の学科ということになりましたよ」というような分布表を発表してもらえると多くの人が救われそうです。

 

とか。長々と書きすぎました。
 

(以下9/12 20:40追記)

不真面目なやつが降年して何がまずいの?という声に対する先制攻撃

この重要な事実を書いていなかったの、進学選択に詳しくない他大の方や高校生以下の方、そして特に降年留年と無縁な成績優秀東大生/卒の方に誤解を与えそうなので追記することにしました。スマホで書いてるので追記前の文章より拙く感情的になっていることをご了承ください。

 

これは進振り時代から続く東大の伝統的な成績のつけ方なのですが、「一度単位を取った科目はその成績評価に関わらず再履修できない」という重大で重要な性質があります。

この事実により「降年し心を入れ替えて勉学に励んでも、上げられる点数には限界がある」という問題が降年生を襲います。

一般的に難易度の高い学科を志望している場合、一年間かけて必死に点数を上げてもどうにもならない可能性があるのです、いやむしろ高いのです。

特に「単位は取ったけど……」という必修科目が多いほどこの悲惨さは拡大します。必修を全部50可で取り切った人は総合科目以外に点数を上げる余地がないのです。しかも理科生については、2年前の必要単位数減少に伴い総合科目の全体に占める比重が大きく低下したためにこの傾向がさらに強まります。温情で6単位の50可をくれた第二外国語の神教員がここに来て最凶最悪の大鬼と化すのです、グラナドスキロスの方がまだマシです(老害向けのネタ)。

この履修制度と今回導入されたDAアルゴリズムを組み合わせた結果、端的に言えば今回内定することなく降年した人、特に必修の単位はなんとか揃えた(揃えてしまった)という人は志望を大きく変えない限りはその次もさらにその次もその次ですら内定しない確率が(かなり)高いことが予想されるのです。

 

(以下感情的な暴言)

少年Aですら第二の人生を歩ませてもらえるこの時代に、東大に入り一年半ダラけたというだけで人生が完全崩壊して更生の機会すら与えられないこの制度、どうなんでしょうか。

本当にダラけた人ならまだわかるんですが、この制度下で死ぬのはダラけきった人ではなくダラけながらも単位を取るぐらいの勉強をした限度は守ったはずな人たちです。

個人的な話をすれば、その年たまたま底点が極端に下がった某学部に目を向けたことで人生が好転したので、少し怠けた人たちにやり直す機会すら与えてくれないの本当につらい。理一→情報系志望の人とか文二→経済学部志望の人とか文三→文学部志望の人とか(ただ文三は総合科目の比重が非常に高いので多分がんばればある程度は成績上げられるし、そこまで擁護する気はないです)、本来なら科類のミスマッチも起こしてなくて学びたいもの学ぶ権利ぐらいはありそうな人たちに関して今そうなってませんか?という心配がすごくあるんですけれど。

まあ第一段階で全力の情報戦を繰り広げて内定する手はあるんでここに書いたほど状況は悲惨ではないとはわかっていますが、なんとなくそう思いました。

 

ということを書き忘れていました。前述したように、書き忘れたのは追記分の前半で後半はただの暴言ですが。

おわり。