夏の作文その2『一夏の思い出』

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夏の作文週間はじめました - ALL FREE FALL

 

2011年の夏のことです。

震災の直後で節電が叫ばれ,自販機は止まりエアコンすらロクにつかない,そんな環境下の駒場キャンパスで僕らは暮らしていました。

その時入っていたサークルは夏休みにやる作業の重要度が非常に高かったこともあり,ぼくも毎日とは行かないまでもそれなりにキャンパスプラザ(サークルが集まってる建物)にある社室を訪れていました。他の社員も誰かしらいて,社室のベランダで脱法ハーブをスパスパと吸って向こうの世界を訪問していたり,ヘルメットを被ってゲバ棒片手に歩き回っていたり。そんな中,社室で誰かが言いました。

「理想の教育棟の建設予定地に木を植えて邪魔しよう」(細かいニュアンスは異なっていると思います)

 

説明が長くテンポが悪くなりますが,「理想の教育棟」というのは東京大学駒場キャンパス内にある,今は「21 KOMCEE」と呼ばれているこの2つの建物が建築中だった2011年当時の呼び名です。

東京大学 [駒場キャンパスマップ(21 Komaba Center for Educational Excellence)]

もはや記憶も定かではありませんが,このうちWestの方は2012年には使用が開始されていたこともあり,すでに建物がほとんど完成していたのでしょう。なので,僕らが木を植えようとしたのは現在のEast側だということになります。

 

もちろん,白昼堂々そのような大それたことはできません。怪しいですからね。決行は深夜です。

夜中になるとどこからともなく人が集まり,土一面に大量の種を植えにかかりました。何の種だったかはもはや覚えていません。植えようとした土地は学生会館すぐ横の空間です。途中で警備員の方には事実上見つかっていましたがなんだかんだで捕まることもなく(今になって思うと捕まるようなことではないですよね,酒飲んでるわけでもないし)終わりました。本当にそれだけ。大したことはありません。

ご存知の通り,すでに木を植えた土地の上には立派な建物が立ってしまいました。結局あの種が芽を出すことはなかったのです。僕らのちょっとした悪事は完全に失敗に終わっていました。確かこのことは(サークルが発行する雑誌の)記事にもなっていませんから,それを知る人すらわずかに数人です。その時の数人ともまったく連絡をとっていませんし,それどころか顔も名前も忘れかけています。あの夜の行為に意味があったとはとても思えません。それでも,いやそれだからこそ僕にとっての夏の思い出として,これ以上のものは思いつかないのです。

ふとしたきっかけで再び2年間の駒場暮らしをすることになり,あの土地の上に立った立派な建物を見るたびにあの日のことやその周辺に起きた色々などを思い出していました。そうした懐かしさに塗り固められた駒場での暮らしももはや終わり,もう二度と僕は駒場を訪れることはないかもしれませんが,それでも,あの瞬間のあの光景を僕は一生脳裏に焼き付けながら生きていくのでしょう。