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留年の手引き(東大の理系1年生向け)

※当初タイトルを「留年・降年の手引き(東大の理系1年生向け)」としていましたが,降年についてほとんど触れていなかったので改めました.

東京大学教養学部前期課程では3月9日にAセメスターの成績が発表されました.もちろん良かった方,良くはないけれど納得しているという方も多いとは思いますが,一部にはとんでもないことになっている方がきっとおられるはずです.Twitterで見ました.そうした人向けの記事です.

この記事を読んでいるみなさんの大半は東大の1年生かと思われます.2015年以降入学者の場合,1年生から2年生への進級は全員可能ですから,現時点では留年が確定した,という人はいないはずです.留年するとしたらそれは自主留年になるわけですね.

さて,この記事ではみなさんに,留年した場合に生じる生活の変化についてできる限り詳細に伝えるとともに,自主留年という制度を利用することによって生じるメリット・デメリットの解説を行いたいと考えています.

後半はともかく,前半は自分自身の経験を中心にした留年推奨記事なので,「どうにかして留年・降年を避けたい!」という人にはあまり役立たないかもしれません.

また,僕が制度について明るいのが理系のみという都合から理系向けと書いてありますが,文系についても具体的な必修科目の名を挙げている部分以外であれば共通して役立てることができるかと思います.

 

留年するとあなたの生活はこう変わる

避けられない落ちこぼれとしての扱い

現役なり一浪なりで東大に入学.合格発表直後には親や親戚,高校の友人に学校の先生,多くの人から祝福されたみなさん.彼らがあなたを祝福してくれていたのはなぜか.あなたの今後の人生が明るいものになると信じて疑わなかったからです.世界ランキングが落ちてきているなどといっても,やはり東大は日本で一番の大学とされています.そこに受かったのですから,あなたの周囲の人びとがあなたに期待し,賞賛の言葉を浴びせるのも無理からぬことでしょう.

「留年する」ということはその期待を裏切ることにほかなりません.信じて送り出したすばらしい人材のはずのあなたが留年する.そう聞いたとき,あなたの周りにいた人びとは何を思うでしょう.親は泣きます.電話越しでは明るく振る舞うかもしれませんが,実際は悲しみに包まれています.あなたは親の信頼を裏切ったのです.高校の友人はその場では「元気出せよ」「1年ぐらいなんだよ」などと励ましの言葉をかけてくれるかもしれません.でも本当はどうでしょう?裏で「あいつ留年したらしいよ」,「もうダメだな」,そんなことを言っていないという確証が持てますか?彼らにとってもはやあなたは憧れの秀才ではないのです.言うなれば昔秀才だったただのクズです.もはや彼らがあなたに敬意を払ってくれることは二度とないと考えてよいでしょう.

同クラとは離れ離れ

ついこの前まであんなに仲良くしていた同クラ.毎日のように一緒に昼ごはんを食べ,たまには放課後に遊びに行き,夏休みや春休みには旅行や免許合宿,遊園地などに行くことで友情を深め合いました.もしかするとクラスに彼女や彼氏ができた人もいるかもしれませんね.東大のカリキュラムが非常に過密であることもあり,日々勉強に追われる生活の中で一緒にいる時間が一番長いのがクラスだという人も多いと思います.

さて,そんな大切な同クラのみなさんとは留年を機にお別れすることになります.友情はそんな簡単には壊れない,そう思っていますか?びっくりするほど壊れますよ.彼らのほとんどはあなたの人柄が好きで仲良くしていたのではありません.一緒にいるから,仲良くしておかないと不都合が生じるから仲良くしていただけです.その枠組みを失った今,彼らにあなたと付き合うメリットが本当にありますか?留年するようなあなたと?本当に?

 

授業は基本ぼっち,実験は留年生同士で組む

留年したあなたと一緒に授業を受けたいという奇特な人は恐らくあまりいません.

あなたの側からあげられるものがない限り,誰もあなたを助けてくれません.シケプリを探すのも大変,その場で組むグループワークの相手を探すのにも一苦労です.

ALESSなどを落としているとさあ大変.周りのピッカピカな一年生たちはみんな3〜4人でグループを作っているのにあなただけ1人ぼっちかも.

さて,そんな中で唯一継続的に同じ人と組むのが基礎実験.学校内では実験の授業だけが人と触れ合える機会となってしまうかもしれません.しかし,触れ合う相手もまた留年生なのです.遅刻する,教科書忘れる,白衣忘れる,予習してこない,グラフ用紙忘れる,高校で習ったはずのこと知らない,やる気がない,途中から来なくなる,……なんと悪質なことでしょう.学力が足りないだけならまだしも,人と会話することすらままならない怪物のような存在がいくつもウヨウヨとうごめいています.そう,それが留年生.あなたもその仲間なのです.

 

「留年生」という属性に支配される

みなさんの多くはサークルや部活,バイトなどに日々励んでいることと思われます.仲間もできて楽しくやっているのではないでしょうか.集団があればその中の各人には様々なキャラ付けがなされるものです.留年してしまったあなたもこの前まで「イケメン」「面白い」「天才」そんなキャラ付けをされていい気分になっていたかもしれませんね.さて,あなたが留年したことを言った瞬間,あなたのキャラは「留年生」一択です.あなたがどんな見た目でどんな人柄でどんな能力を持っているかは一切関係ありません.「○○さん」「ああ,あの留年の」こんな会話が後輩たちの間でなされていることにあなたは気づけるでしょうか.哀れですね.

 

留年で得られるもの

僕は大昔に駒場で一度留年(1年生を2回)したのですが,そこから駒場脱出までの2年間で得たもので今の自分の4割ぐらいは構成されているなあと感じます.有意義に使えばそう悪くない時間であるのも事実なので,良かった点を書きます.

自主性が高まる

留年することで周りに人がいなくなり,何をするにも自分自身の意志が大事になります.こうした環境での生活を送ることで,自分の意見を持つこと,自分自身で考えることと,いった望ましい習慣が自然と身につくはずです.身につかない人もいますが,そうした人たちはだいたい退学してしまいますね.

暇な時間が増える

留年したといっても全ての単位を落としているわけでもありませんから,必然的に留年してやり直している学年の間は非常に暇です.平日に旅行に行ったり,アニメを見まくったり,バイトをしまくったり,悠々自適な生活を送ることができます.こうした時間は実のところ非常に貴重で,現役で大学に入り留年することなく卒業し,そのまま企業で勤め始め,というキャリアをたどるともしかしたら定年まで味わえないかもしれません.そうした機会を若い内に持てるということは本当はとても贅沢なことなのではないでしょうか.

同期が年下になる

ロリコンの人にはおすすめ.

精神的に強くなる

留年したという事実,それを親に伝えること,その後留年の事実を噛み締めながら生活すること,他人から留年した理由について何度も何度も聞かれること.自分を含めた世の中のありとあらゆるものが「留年」の事実だけをとっかかりにして攻撃的になって襲い掛かってきます.最初はキツいですが,これを乗り越えることで強靭な精神力を手に入れることができます.

たとえば僕の場合は,上司にあたる目上の人から30分間罵倒されても「あはは,変なやつがなんかわけのわかんないこと言ってる」で済ませられるようになりました.とてもおすすめです.

 

自主留年の恩恵

自主留年という自殺行為を行う学生など通常存在しないはずですが,東大前期教養の特殊なシステムの下では自主留年した方が良い,というケースが確かに存在します.とはいえ,そのパターンは少ないと僕は考えています.

 

現段階で留年を考えている1年生には以下の3パターンが考えられます.

  1. 外国語(英語or二外)の成績が進学選択参加要件を満たしておらず,Sセメスターでの履修分はすでに単位を取得してしまっているため,Aセメスターでの降年が現時点で確定している場合.
  2. 現時点で必修科目の単位を大量に落としており,進級しての単位取得は50点が上限などの制約が強いため,留年・降年なしに進学選択で志望している学部学科へ進学するのは難しく,ここで自主留年しなかったとしても高い確率でAセメスターでの降年が予想される場合.
  3. 現時点で単位を派手に落としているわけではないが,やはり成績的に志望学部・学科への進学が厳しく,自主留年しての成績向上を目指す場合.

結論から言えば,1〜3いずれの場合にも,安易な自主留年を行うべきではありません

留年を考えているみなさんにぜひ知っておいてほしいのは,一度(たとえ50可であろうと)単位を取った科目の成績は二度と上げることができないということです.この最重要ポイントを頭に入れつつ,それぞれの場合について,どんな場合に留年すべきか,あるいは留年すべきでないのか,を考えていきたいと思います.

 

まず1.の強制降年のケースですが,さらに「Sセメスター分の再履修が(大量に)ある場合」「Sセメスター分の再履修が(あまり)ない場合」の2つに大分されます.

前者であれば今のうちに留年し,2年生としての再履修(他クラス聴講)ではなく1年生としての履修をすることで,それらの科目の上限を100点にする(他クラス聴講だと上限50点の科目がほとんど)ということに大きなメリットがあるため,確かに自主留年しておいた方がよいのかな,と思います.特に志望する学部学科への進学にある程度の点数が必要であるならば.

ですが,後者の場合には留年するメリットはほとんどないと言ってもいいかもしれません.というのも,留年したところで留年しなかった場合に比べて広がる選択肢はわずかだからです.1年生でしか履修できない総合科目が一部あるので,それを履修できる,というぐらいでしょうか.むしろ留年しなかった場合,強制降年によって2Sを2回繰り返すことになるため,2Sの履修について柔軟な戦略が成り立ちます.おすすめは1回目の2Sは必修科目に集中し,2回目の2Sで総合科目をかき集めるといったものです.また,1回目の2Sで必修・総合ともに取りきり,2回目の2Sを完全なモラトリアムとして好きに使うのもよいでしょう.何にせよ,落とすと即降年確定する物性化学などについて,最初から2回チャンスを与えられているというのはとても大きいです.こうした理由から,1S必修で落としていない,もしくは落としていても1科目程度だ,という場合には留年せずに2Sの必修科目を確実に回収しておく方が無難です.同クラのシケ対も有効活用できますしね.

 

2.のケースでは,1.と同じく,1Sの必修で落単が多い場合のみ留年のメリットがあると考えてよいでしょう.留年しないメリットとの比較もほぼ同じです.ただ,成績を大きく上げなくてはならない関係上,2単位程度の落単でも自主留年して100優を狙おう,というのは納得できます.単位を落とすような方がそこで100優を取れるのかは大いに疑問が残りますし,2Sの必修科目でも高得点を取れないと留年する意味はないのですが,自分自身が心を入れ替えて頑張る自分を想像でき,自分の中で納得できるのであれば止める理由もないでしょう.

 

3.のケースは,考える人の数だけなら実のところ一番多いかもしれません.ですが,はっきり言ってこの場合に自主留年することには何のメリットもありません.繰り返しますが,一度単位を取った科目の成績は二度と上げることができないのです.

必修に落単がない場合,取り直して成績を上げられるのは総合科目だけです.総合科目であれば1Sで取るのも2Sで取るのも基本的に変わりませんから,みすみす進学選択のチャンスを一度つぶしているだけ,ということになります.

来年度進学選択から制度が大きく変更されるためどうなるかはわかりませんが,過去の進振りでは人気学部・学科と言われていた理学部の物理学科や薬学部,工学部の航空宇宙が底割れしたといったケースもあります.もしそうなったときにあなたが自主留年してしまっていたら,それこそ後悔しか残りません.また,制度の変わり目だからこそ,従来の人気学科が暴落,という事態も生じうるはずです.

以上のことから,この場合には自主留年するのではなく,進学選択まで粘って,それから降年するかどうかを決定するべきでしょう.

また,この場合には成績を大きく上げられる要素が総合科目しかないため,降年しても絶対無理,という事態に陥るかもしれません.その場合には残念ですが,希望の学部学科へ進学するには再入学するしか道がありません.再入学は非現実的ですから(これを僕が言うと説得力がないですね),進路変更を軸にして自分自身が納得できる方向性を探していけるとよいのかなと思います.

 

 

本当に言いたかったこと

みんな留年しよう!